産婦人科のウラ 樫野貴之

2013年03月19日

第5話 緊急帝王切開の話(前編)

手術室。仕事としてここを日常としている人たちもいるが、この空間だけは非日常だ。
麻酔科の医師、手術室の看護師、器材室のスタッフなどはそうであろう。
今回は、その人々に助けられながら手術を施行する話、中でも緊急症例についての話だ。

手術には、大きく分けて2つある。「定時手術」と「緊急手術」。
「定時」は、あらかじめ決まった日時を選択し、予定通り行われる。
「緊急」は、それ以外の、早めに行わないと生命に危険が及ぶものだ。

適応される疾患は各科によって様々。例えば「脳出血」「大動脈破裂」「急性虫垂炎」など。
血管が破裂、腸管が破裂など、「破裂もの」「炎症もの」がほとんどで脳神経外科や外科の領域が多い。
これらは定時の手術のスケジュールをずらしてでも行わなければならないもので、何ヶ月も待ってもらった患者には申し訳ないが、こちらが優先される。診断から決定までは、それはもう、経験とチームワークがモノを言う。

ご多分に漏れず、我々産婦人科にも「緊急」症例がある。「卵巣茎捻転」やお腹(子宮)を切って胎児をとりだす「帝王切開」などである。今回は、「緊急帝王切開になるまでの話」をしようと思う。

その前に、帝王切開における定時手術、緊急手術の「適応」ついてちょっと説明する。

―――「定時手術」の適応―――
1)前回帝王切開だった人が、2人目の分娩の時にもう一度「帝王切開」での分娩を選択。
2)初産の人でも「骨盤位」、いわゆる“逆子”で「帝王切開」での分娩を選択。

上記のケースはある程度時間が読めるので、緊急性がないが故にあらかじめ日時を決めて行うことができる。

―――「緊急手術」の適応―――
それとは対照的に、時間の読めないもの。例えば、「分娩進行中」に「子宮破裂」や「胎児機能不全」が疑われ、
結果的に「胎児の生命に危険がひっ迫する」ことがある。この場合、胎児救命を優先するため、自然分娩にせず、
定時の手術を差し置いてでも早急な手術で危機を回避することを第一選択とする。これらは当然ながら、医師の判断で決定する。

それでは、緊急帝王切開までの流れを書くこととする。
まず、設定として以下のような状況を念頭に置いていて欲しい。

患者は34歳初産婦。妊娠初期より当院で経過観察されており、今までに特に異常を指摘されることはなかった。
昨日20時頃から陣痛初来。本日明け方4時頃入院し、以降、当院で経過観察中。胎児モニターを含め、経過は順調。
本日夕方18時頃子宮口は7cmまで開大。その際、早期然破水するも、性状に異常はなし。とまあ、こんな感じだ。

よく分からないと思うので、ざっくり説明すると。

『初めてのお産なので時間が多少かかるが、普通だったらあと数時間で分娩になりそうなところまで来ている患者が、破水した。』
ということである。(まだ病気ではないが、敢えて患者と記す)

さて、ここからが本題。

その患者には、胎児の心拍を継続して測定する「分娩監視装置」というものがついていたのだが、突然、装置が警報を出した。原因は分からない。とにかく一時的にでも胎児が危機の状態と装置が認識した、ということである。この場合、まず最初に助産師が医師へ連絡をとる。

「先生、○○さんのモニターに異常が出ています。どうしましょうか?」

医師はそのモニターが看過できるものかどうかの判定をする。もし、出来るのであれば「もう少し様子を見てください」と指示を出す。しかし、そうでない場合もある。
実際のモニターを見ると、心拍が低下しており、軽〜中等度の危機を示していた。
(ここでは、細かい表現は抜きにしておく。日本産科婦人科学会の定義の説明は割愛。)

「まずは酸素吸入と体位変換を頼みます。それで様子を見て下さい。」
「わかりました。」

助産師は指示通りに施行した。しかし、数分たってもモニター上の胎児心拍が今ひとつ良くならない。
しかも、悪いことに、割りに重症と思われるモニター表示がちらほらと出はじめた。

医師は一つの行動に出る。
「赤ちゃんの状態を確認するため、ちょっと今から超音波検査をしますね。」

そう言って、分娩監視装置を取り外し緊急で超音波検査をはじめる。胎児の心拍数を画面で時々確認しつつ、胎児の元気さ、羊水腔(物理的な衝撃から胎児を守るための水)の多さ、臍帯(へその緒)の位置、胎盤の性状や患者の表情など、いろいろなところから情報を得ていく。最終的に判明したのは、破水のため羊水が少なくなり、さらに胎児の首に臍帯が2重に絡まっているということだった。

医師は以下のように考える。
『羊水が少ないということは、それだけ胎児に対する緩衝材が少なくなったということ。そこに、胎児の首に臍帯が、しかも2重にぐるぐる巻きついている。監視モニターではまだ軽度だが、中等度の胎児機能不全(胎児仮死)の可能性も出てきた。子宮口はまだ7cm開大だ。前開大(10cm)ではない。初産婦の場合、全開大するにはもう少し時間がかかる。経膣分娩では、胎児は最後の出口で一番狭く苦しい状況におかれる。7cmでこのモニターということは、最後それに耐えられるだろうか?安全を考え帝王切開に切り替えるべきか?まずは、酸素吸入と体位変換でどこまで胎児心音が戻ってくれるか、そこを見極めないと判断がつかない。それまで帝王切開と経膣分娩のdouble set upの対応とし、助産師には緊急帝王切開の準備をしてもらおう。』

医師は、患者に対し、まずはこのまま経膣分娩の方向で行くことを告げ、それと同時に緊急で帝王切開になる可能性について話をした。そして、念のため、夫に連絡が取れるよう話しておいた。

しばらくして、分娩監視装置のモニターは落ち着き始めた。
しかし、時々胎児の元気さがいまいちの所見が出始める。
さらに、時々気になる心音低下が出はじめた。

『このままだと、経膣分娩時に胎児機能不全になる可能性が高いな。早めに帝王切開の方が良いか。』

ここで手術に向けて色々動くことになる。まず、最初は患者へ話をする。
「今現在、胎児はまだ大丈夫です。ただ、赤ちゃんの首に臍帯が2重に巻かれている状況です。1重くらいならばこのまま何とかなることもあります。しかし、今後分娩が進行するにつれて、胎児の状況が悪くなる可能性が出てきました。このまま経膣分娩で様子を見るのも一つですが、状況が悪化した時に対応する時間が取れなくなる可能性もあります。赤ちゃんを安全に分娩させてあげるのには、帝王切開を選択するのが良いと思います。旦那さんともよく相談してみて下さい。」

医師は、上記のような説明の他、患者と電話先にいる夫に今の状況と今後起こりうるリスク、手術の必要性、危険性などを説明する。患者は夫と電話で相談し、我々に伝えてきた。

「わかりました。夫も帝王切開で良いと言っています。先生よろしくお願いします。」
「わかりました。では今から本格的に緊急手術の準備や処置をしますね。」

医師は担当の助産師に緊急帝王切開の準備の指示を出した。
ここからは、まさに病院としてのチームワーク。色々なことが動き出す。

陣痛の始まっている患者の術前検査は、あまり動かすことが出来ないので全てポータブルタイプの器械で行う。特に、レントゲンは結構重い器械だ。レントゲン技師が病棟のベッドサイドまでやって来て撮影する。心電図も技師がベッドサイドで検査をする。助産師は、採血、導尿などで検体を採取し、検査室に運ぶ。検査室の検査技師にも一報を入れておく。
ある程度結果が揃ったところで、今度は医師が麻酔科医に連絡し、術前結果の確認とともに手術室の使用許可をもらう。手術助手の医師も手配する。手術室看護師から病棟出頭の時間と許可を確認し、それに合わせられるかどうか病棟側の助産師にも確認する。そして、皆の足並みが揃ったら、出棟となる。

ざっくり言うと、以下の様になる。
1)術前検査をするために、全て緊急で心電図、胸部レントゲン、採血、採尿を行う。
2)手術は一人では出来ないので、応援の医師を確保する(上司や部下にお願いする)。
3)手術室に状況を説明し、緊急枠の手配をする。(同時に麻酔科医の確保もする)
4)術前データが揃ったら、麻酔科医に連絡し確認後出棟時間を確認する。
5)各方面、足並みが揃ったら、迷わず手術室へ!

これが、医師を司令塔とした、コメディカルスタッフとの連携したチームワーク。
これを素早くできるかが病院の対応力になる。
この一連の工程をつつがなく行うことが、医師の腕でもあり、より良い医療に繋がるのだ。

このあとは、手術や術後の管理の話となる。それはまた後日に。

結果として、無事に元気な新生児が生まれ、母体も無事であれば言うことはない。
無事に退院し、母子ともに元気であればよし。この瞬間こそ、産科医にとってかけがえのないものなのだ。
posted by 樫野貴之 at 18:54| Comment(2) | 産婦人科のウラ
この記事へのコメント
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