産婦人科のウラ 樫野貴之

2013年02月03日

第四話 インフルエンザじゃない?「38度の発熱後」の患者

今年はすごい勢いでノロウイルスが流行している。遺伝子的に厄介な型の様で、我が病院も大変だ。(余談ながら、発端はとある「輸入食品」が原因の一つかも、と予想)

まずは、うがい、石鹸での手洗い、マスク!(何気にマスクは効果がある)
アルコール消毒は効かない為、注意が必要だ。
塩素系漂白剤(キッチンハイター)は、効果はあるのですが扱いにくい。
こんな時は、産婦人科医だけあって、やっぱり「ミルトン」最強説を流しておこうと思う。

さて、今日はこんなお話だ。

外来で通常業務。とある初診患者がやって来た。

「一週間前に38度の熱がでて。流行っているみたいだからインフルエンザかと思って近くの内科に行ったんです。でも、調べたらインフルエンザじゃなかったんで、そのまま様子を診てくださいと言われたのでそのままにしていたら、数日前から外陰部がすごく痛くて。で、生理も始まっちゃったし我慢していたんですが、どうして良いかわからなくなって。」

一週間前に謎の発熱、インフルエンザじゃない。
その後外陰部が痛くなる。さて、一体何だろう。

内診台に上がってもらい外陰部を見た。
丁度大陰唇の所に1cm大の潰瘍がある。
予想外に膿みがあり、かなり痛そうだ。

「結構大きな潰瘍がありますね。かなり痛いんじゃないかな。」
「私、よく痛くなるんだけど、今回のはちょっとひどかったから受診しました。」
「そうですか。今は熱はありますか?」
「今は37度位です。だいぶ楽になりました。」

内診台を降りて貰い、また問診を始めた。

「今まで外陰部に同じような症状が出たことはあったのだよね?」
「うーん、今まで結構痛いことがあったけど、自然に治っていました。」
「家族の中で、または家系的に外陰部に潰瘍が出来た人はいませんか?」
「いえ、いないと思います。」
「熱が出る数週間前、ハードワークだったり、調子を悪くしていませんでしたか?」
「仕事が切羽詰っていて、ろくに休めていなかったですね。インフルエンザの欠勤者がいて、実際しんどかったし。」
「そうですか。この潰瘍には、色々な可能性がありますが、一番疑わしいのは『性器ヘルペス』ですね。」
「性器ヘルペス?何ですか?それ?」
「ヘルペスウイルスが体の中にいて、今回のように体調が悪くなった時にたまたま症状を引き起こしたのかもしれません。結構痛そうだし、可能性は高いと思います。塗り薬と痛み止めと、抗ウイルス薬を飲んだ方が治りが早いと思いますね。」
「そうなんですか?とにかく痛いから治したいです。」
「今日は採血と、それからお薬を出しておきます。他の人に移りやすいから、使ったタオルとか、分けてくださいね」
「あー、大丈夫です。ひとり暮らしだから。あ、でも彼氏来るからまずいか。」
「水疱がなくなって、かさぶたになったら感染力はなくなりますので、それまで彼氏には、申し訳ないけれど、出入り禁止と言ってください。」
「先生、これって性病ですか?」
「うーん、性病ではあるけれど…持っちゃったウイルスに関してはあなたに罪はないですよ。誰から移ったか分からないでしょうし。」
「そっか。わかりました。」

そうして、色々話したあとで、抗体価の確認のための採血をし、患部への塗り薬と痛み止め、抗ウイルス薬5日分を処方、2週間後に結果の再診予約をしてもらった。


性行為感染症のひとつに「性器ヘルペス」というのがある。

体調に大きく左右され、一度なると再発を繰り返すものだ。臨床的には初発の感染と再発とに分かれる。初感染は不明な人もいるが、水疱や発赤で出る人が多い。原因はウイルス。単純ヘルペスウイルスというものなのだが、1型と2型に分かれる。1型は「口唇ヘルペス」。2型は「外陰部ヘルペス」などと言われている。しかし、最近は生殖器をくわえる行為(いわゆるフェラチオ)など、性の多様化のおかげでそのウイルスの住み分けさえもボーダーレス化してきている。ま、ウイルス界のグローバリゼーションだ。

どちらのウイルスも共に人の体中にいて、いつ発症するかわからない。一般的に免疫力が落ちてくると、このウイルスは「そろそろ、私の出番ですね」というような感じで増殖をはじめ、皮膚に発赤や水疱、時には潰瘍を形成し暴れだす。38度クラスの発熱も多い。
住んでいる場所は人の知覚神経節の中。(神経の中で節のように少し太くなっている所がある。説明は割愛。)この住人は、出ていくことは一生ない。大家からしたら、困った店子だ。

さて、読者が一番関心のあるのは、感染の仕方だろう。
このウイルスは接触感染が主である。居場所は水泡内。女性の外陰部でも、一般皮膚でもどこでもよい。症状のある部位が患部となる。その水疱の中に大量のウイルスが存在している。

ちなみに水疱だけとは限らず、水疱前のおできのような部分、時には潰瘍の中にも潜んでいる。そして、そこと直接接触をすることにより確実に感染する。さらに、ぬぐったタオル越しでも感染する。

潜伏期間は2〜10日。その後、発熱と共に、または遅れて発症する。

もとは性行為感染症だ。
症状がでている時は痛くて性交渉はしないだろうが(もちろん、その時期は確実に感染する)、問題なのはかなり治っていても、完全に治らない限り感染源となり得ることだ。
男側でも、コンドームで防止できるのはあくまでも陰茎だけ。陰茎の付け根、肛門、臀部、大腿部に発症することがあるので厄介だ。
そして、一度感染したらその人に一生住み着く。当然、再発のリスクもある。


後日、再診予定日に患者は現れなかった。
恐らく、治療が功を奏して症状もなくなったのであろう。

症状がよくなると患者は来なくなることがある。まあ、しょっちゅうなっていた様だし、産婦人科に好き好んで来たいわけではないのだろう。よくある話だ。気持ちは分かる。
検査データを確認してみたが、ヘルペスの抗体価もしっかり上がっていた。しかも、初感染でなく再発のパターンだった。そう言う意味では予想通りだ。


もし、発熱があったら、内科だけではなく産婦人科への受診も考えたほうが良い。
そう、頭の片隅にでも入れておいて欲しい。
posted by 樫野貴之 at 12:51| Comment(0) | 産婦人科のウラ